かつてのインスリン補充(ほじゅう)療法(今でも用いられることもあります)
一定の固定された量のインスリンを用いていました。
1日1~3回、決まった時間に決まった量のインスリン注射を行います。
結果的に、毎日、決まった量の食事を決まった時間に食べなければなりません。
運動も決まった時間に行わなければなりません。
この古い方法では、血糖値を目標はんい内に保つことは大変困難です。
生活に自由度がほとんどありません。
糖尿病治療にあわせて、生きていくしかありませんでした。
糖尿病治療が患者さんをコントロールするやり方でした。
頻回(ひんかい)注射法(MDI:multiple daily injections:1日に3回以上の注射)およびインスリンポンプ療法は、より自由度の高い治療方式です。
健常なすい臓がインスリンをつくって放出するやり方をまねます。
ひんかい注射法では健常人におけるインスリンの基礎分泌と追加分泌をまねます。
ひんかい注射法を行うと、食べる量にあわせた追加インスリンを注射することができるため、食事の量および時間についての自由度を高めることができます。
運動する時間にも制約がありませんし、特にインスリンポンプを用いた場合は、基礎インスリンを減量することで、低血糖を回避することができます。
ひんかい注射法は自由度が高いため、日々のインスリン量を変えることで寝たいときに寝れます。
夜更かしもできますし、世界中を旅行することもできます。
■DCCT(The Diabetes Control and Complications Trial )
1型糖尿病の管理の考え方を変えた重要な研究です。
9年かけて実施されました。
1993年にその結果が報告されてから、1型糖尿病の管理の考え方が、大きく変わりました。
1日3回以上のインスリン頻回注射療法(MDI)または、インスリンポンプ療法による厳格な血糖管理は従来の1日1~2回のインスリン療法と比較して、HbA1cの改善や合併症進行リスクを低減しました。
DCCTは血糖コントロールがとても大切であるということを示しました。
治験開始時に最も若かった参加者は13歳でしたので、DCCTの結果はどの年齢の1型糖尿病患者さんにも適応できるように解釈されています。
糖尿病のまん性合併症の予防のために最も有効な方法は、良好な血糖コントロールを実現することであると判明しました。
DCCTには1400名を超える1型糖尿病の患者さんが、参加し、強化療法群と従来療法群の2群に分けられました。
■強化療法群
1日3回以上のインスリン注射療法あるいはインスリンポンプ療法を行いました。
また、医療従事者から多大なるサポートが提供されました。
DCCTが終了した時点で、強化療法群の平均HbA1cは7.3%となりました。
■従来療法群
1日1~2回のインスリン治療を行い、血糖コントロールは目標を定めず、強化療法群のような医療従事者からの十分なサポートもありませんでした。
DCCTが終了した時点で、従来療法群の平均HbA1cは9.1%となりました。
■結果
研究期間が終了した9年目の時点で、従来療法群と比べて、強化療法群において、
糖尿病もうまく症、糖尿病じん症、糖尿病しんけい障害を合併した患者数が少ないことがあきらかになりました。
この結果は衝撃的なものでした。
一方で、DCCTから得られたもうひとつの教訓として、HbA1cの低下は、低血糖リスクの増加を伴うことが判明しました。
■EDIC(DCCT後の追跡研究)
1993年にDCCTが終了した後、追跡研究が開始され、現在でも続いています。
この追跡研究はEDIC(Epidemiology of Diabetes Intervention and Complications)と名付けられ、ほとんどすべてのDCCTの対象者が参加しています。
DCCTの期間中、強化療法をうけていた患者さんは、従来療法をうけていた患者さんに比べて、2009年の時点で糖尿病もうまく症、糖尿病じん症、心血管疾患の頻度が低いことがわかりました。
EDICの期間にはいって、強化療法を受けた患者さんの平均HbA1cはDCCTの期間中よりも上昇していました。
それでも、過去に強化療法を受け、HbA1cが改善しているということが健康面でとてもメリットがあることがわかりました。
1型糖尿病の患者さんに強化療法、すなわちインスリンポンプ療法や3回うち以上のインスリン注射をお勧めする理由です。